知的障害とは

知的障害とは, 知的障害意味

知的障害の概要

<障害の定義>
知的障害とは、知的能力に遅れがあることにより、日常生活に支障を来し、社会適応に困難がある状態をいいます。身体障害のような運動制限があるわけではなく、障害の有無や障害の程度が外見からはわかりにくいという面があります。一般的には、読み書き・計算、金銭管理などに困難を伴います。
日本では法令上、明確な知的障害の定義がありません。厚生労働省の「平成17年度知的障害児(者)基礎調査結果の概要」では「知的障害」を「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」と定義しています。

<障害の判定基準>
上記の定義を踏まえ、自治体などでは多くの場合、次の3つの要件を知的障害の基準としています。

発達期(おおむね18歳未満)において知的能力の遅滞が生じる。
知的能力の遅滞が明らかである。
知的能力の遅滞により、適応行動が困難である。

また、知的障害の有無を判定するためには、発達・知能検査(田中ビネー知能検査など)が用いられます。知能指数(IQ)が70ないし75未満(以下)の場合に知的障害と判定されます。知能指数による判定基準は自治体によって異なります。

知能指数/71~85程度(境界域)
ほぼ、身辺生活処理が可能。読み書き・計算、言語に課題がみられず、知的障害と認定されない場合も多い。

知能指数/51~70程度(軽度)
身辺生活処理が可能。住所・氏名など簡単な読み書き・計算がほぼ可能。言語および簡単な文通が可能。買い物に行ってレジで必要なだけのお金を出すことができるので、日常生活を送ることが可能。

知能指数/36~50程度(中度)
身辺生活処理がおおよそ可能。簡単な読み書き・計算が部分的に可能。言語および簡単な文通が可能。会話は、身近な相手との簡単な日常会話に限られる。

知能指数/21~35程度(重度)
身辺生活処理が部分的に可能。簡単な読み書き・計算がほとんど不可能。言語がやや可能。会話は、身近な相手との簡単な日常会話に限られる。

知能指数/20以下程度(最重度)
身近生活処理がほとんど不可能。簡単な読み書き・計算が不可能。言語がほとんど不可能。身近な人と身振りや合図などでコミュニケーションをとる。

なお、「知的障害者福祉法」の対象は発達期までに生じたケースに限られ、事故の後遺症や認知症といった発達期以後の知能の低下は知的障害として認定されません。

<呼称の変遷>
かつて知的障害は「精神薄弱」という用語で呼ばれていました。しかし、これは精神障害と混同されやすく、また、「精神・人格を否定するかのような響きがあり、差別や偏見を助長しかねない」という障害者団体などからの指摘を受け、1998年9月に「精神簿弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律」が成立。1999年4月より施行され、法令・制度上で「精神簿弱」は「知的障害」という表現に変更されることになりました。

<公的支援>
知的障害があると認定されると療育手帳が交付されます。療育手帳は都道府県知事(政令指定都市の場合はその長)が発行するもので、医療費の減免や交通機関の運賃割引の際などに証明書の役割を果たします。名称は「みどりの手帳」「愛の手帳」などさまざまです。申請窓口は市町村です。
>知的障害者の手帳について
また、在宅サービスや施設サービスのほか、同行援護、就労支援などの各種サービスは障害者総合支援法(2013年4月1日施行)に基づき利用することができます。

 

心理面の理解(知的障害)

知的障害者の中には自分の思いを人に伝えるのが苦手な人もいますが、喜怒哀楽や好き嫌いの感情はあり、鋭い感性を持っている場合も多くみられます。介護職員は、言葉では十分に表現されない利用者の気持ちを、可能な限り理解しようと努力する姿勢が求められます。
また、知的障害者の多くは刺激に弱く、ささいな刺激でも不安を増幅させたり、過剰に反応することがあります。そのような場合は、不安になった気持ちを十分に受け止め、できるだけ早く気分転換が図れるような場を提供することが大切です。

知的障害者は、物事に対処しようとしてもできないことが多くあります。たとえば抽象的な概念は理解しにくく、状況に合わせて臨機応変に行動することも苦手です。こうしたことから、うまくできないことに対して不安が大きく、自信がないとすぐに人に頼ろうとします。その反面、自信を持った事柄には自発的に取り組むことができます。介護職員は利用者のこうした傾向をよく理解し、利用者が頼ろうとすることも時間をかけて覚えてもらい、利用者の自信につながるように対応する必要があります。

 

障害の理解(知的障害)

医学的には知的障害の原因は未解明なものが多いといわれます。脳の発達に障害をもたらす原因や過程が明らかなものを病理型、病理がみつからないものを生理型と呼びます。

<知的障害の原因>
病理型
染色体異常(ダウン症候群など)、胎生児期の感染症、アルコールなどの中毒、代謝異常、内分泌系の疾患、栄養不良、出生児障害、発育期の高熱など。

生理型
特に病理がみつからない原因不明のもの。全体の4分の3を占めるといわれる。

 

生活面の理解(知的障害)

知的障害は理解力や記憶力、対応能力に制限があります。理解できることの範囲には個人差がありますが、抽象的な物事の理解や短期記憶は苦手な場合が多いとされています。物事の因果関係を推論することが苦手なため、自分が経験したことのない行為について結果を予測することは困難です。さらに、時間や空間の概念の理解、言語によるコミュニケーションが苦手な人もいます。
成人の利用者の中には能力を活かして、通所作業所や民間の企業で働いている人もいます。そうした社会生活への参加の中で、人とコミュニケーションを図ったり、周囲の人に評価してもらえる喜びは大きいものです。経験を広げながら社会生活のあり方を学ぶという大きな意味があります。
介護職員はこうしたことを踏まえ、利用者の意思を理解した上で、その人らしい生活が送れるように支援することが求められます。

 

ケアのポイント(知的障害)

知的障害者の生活は障害の程度や年代などにより異なりますが、青年期以降では、社会生活への参加や自己の持つ能力の発揮とその維持が課題となります。ケアにあたっては次のような点に留意する必要があります。

利用者が身の回りで起こることをどのように認識しているかを理解する。
利用者がどのような形で社会に参加しているのかを理解する。
利用者が現在持っている能力を理解する。

その上で、利用者が困っている事、支援するべき事を整理します。利用者の認識とかけ離れた言動や必要以上の支援は、利用者を混乱させたり、自己選択の幅を狭めたり、依存性を高めることにつながる危険性があります。
利用者が自分の思いを人に伝えることが苦手だったり、話し方のペースがゆっくりであっても、介護職員は先回りして結論を出したり、何もかも手伝ってしまうのではなく、利用者のペースを尊重して耳を傾けることが大切です。
たとえば、利用者が実際に家事を行うといったような、複数の手順を段取りを考えながら同時にこなしていくことは困難です。介護職員は利用者と一緒に手順をメモし、利用者はメモを見ながら1つ実行するごとにチェックしていきます。介護職員はそれを見守り、助言するといった方法で支援します。


Posted by disability-support-info